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2011年9月3日土曜日

欧州各国への財政支配を終わらせるために

スーザン・ジョージ、ニック・バクストン

8月9日

今回のユーロ危機は、リスボン条約や欧州中央銀行、力を持ちすぎた金融セクターが押し付ける経済的拘束から私たちを解放する必要があることを示す、明らかな証左である。

あなたは1980、90年代の債務危機に関する業績で広く知られるようになった。そして、それは開発途上国における危機だったが、現在も主に苦しんでいるのは途上国であると見ているか? また、これをどう説明するか?

第三世界の国々の債務危機の原因は、今回と同じではありません。1970年代、借りたお金の多くが、軍備、中高所得層の贅沢、輸入、原油価格の上昇、無用の長物となるような開発プロジェクト、言い換えれば生産性の無い支出に使われたのです。また、アメリカは1981年に突然、一方的に利率を大幅に上昇させました。



ジョン・パーキンスは「エコノミック・ヒットマンー途上国を食い物にするアメリカ」(東洋経済新報社、2007年)において、途上国を意図的に借金状態にしてコントロールする政策が存在した、と述べています。彼の個人的証言についてはさらなる裏づけを必要としますが、一方で豊かな国々が、その通りのことを行うために債務を利用してきたことは確実であると分かっています。つまり、アメリカやその他の債権国が、途上国に非常に不利な条件で世界経済に参入することを求め、条件を強制的に押し付けたのです。

現在のヨーロッパ債務危機の大きな原因は、政府が破壊的な金融危機を引き起こした民間金融機関の債務を引き受けたことにあります。明らかな事例として、アイルランドは国内の全ての金融機関の債務の責任を引き受けました。一方で、それは現在危機の只中にある全ての国々に当てはまることです。

多くのヨーロッパの国々は、低いレベルの債務を抱えてきました。今年初め、スペインの債務はGDPの55%に過ぎませんでした。マーストリヒト条約の厳重な規定でも、GDPの60%は大丈夫であると述べられています。例えば、イタリアとベルギーは100%を優に超えていますが、フランスのように緊縮財政を宣言した多くの国々では問題は起こっていません。

人々は家計の債務と国家の債務は同じものであると信じる傾向があります(同時にメディアによってそう信じるように言われている)。そうではありません。家族は自身の財産を超えて生活することはできませんが、とりわけ、現代の国家は常にそうしてきたのです。アメリカは19世紀以降、債務から自由になったことはありません。国家債務ゼロという考えはもはや完全におとぎ話です。

明らかに、生産性への投資のためには借金をした方がよいのです。そして、もし債務が過剰になり、最後には債権者に非常に多くの利子を支払わなければならなくなったとしても、「公的債務」と呼ばれるものは問題ならないのです。

こうした政策はどのような結果を導くと考えるか?

これまでのヨーロッパの政策は悲惨なものです。これは1980年代に途上国に強要した「矯正」と呼ばれるものと同じで、今日では「開発の失われた10年」として良く知られています。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに押し付けられた緊縮プログラムは、構造調整プログラム(SAPs)という新自由主義の教科書を、何から何まですべてそのまま適用したものです。

その結果、それらの国の経済が、聞いたこともないようなレベルで激しく収縮したのです。過激な民営化、給与カット、社会的支出の廃止などは、実際の貧困国であるニジェールのような国にも押し付けられたのですが、これは実際に飢饉や多くの死者を招いたのです。ヨーロッパは、多少のゆとりと貯金がありますが、ギリシャ経済は今年すでに5%以上縮小しており、補償も無いまま失業率は急上昇しており、中小企業は大量に倒産し、見るものすべてが民営化されています。

これは労働者を19世紀に押し返すように設計された犯罪的な政策であり、何世代にも渡って人々が勝ち取ってきた社会的利益を奪っているのです。一般的に、富裕層は逃げ出してしまい、国際資本は民営化の見込みが生まれることで全盛期を迎えます。一般の国民の金融危機に対する支払いは倍増します。真っ先に銀行が救済され、犠牲を強いられ、自分たちの国と国民生活を破滅させる結果を引き起こしています。

ギリシャの財政コントロールに対する失敗と過ちを主張する人々に対して、どう応えるか?

人々は「ギリシャ国民は税を支払わない」と言いますが、これは便利なタックス・ヘイヴンであるキプロスに住むお金持ちも、まったくその通りなのです。スイスの金融会社の報告によると、スイスの金融機関にあるギリシャのお金のわずか1%しかギリシャに対して申告されていません。そして、フランスでもわずか3%であり、ギリシャはこの問題における唯一のプレイヤーではないのです。ギリシャはまた、非常に大きな割合を占める軍事予算を維持しています。仮想敵国のトルコが相互の軍事支出削減を提案したにも関わらず、ギリシャはそれを拒否しました。

ギリシャ最大の資産家であり土地所有者であるギリシャ正教会は、全く税金を払っていません。これは意味の無いことです。また、そこには巨大な影の経済があるのです。そして、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が政権を引き継いだ際、彼らの前任者は帳簿を改ざんし、国の借金を極めて小さく見せていたのです。

こうした事柄を考えたとしても、私たちはギリシャがヨーロッパ経済のほんの2%を占めるに過ぎないことを思い出さなければなりません。それは単に大いなる分裂の危機や、想像を絶する心理劇というだけではないのです。ドイツと欧州中央銀行は、この問題を債務とデフォルトという率直な経済問題としてではなく、ギリシャに罰を受けさせなければならないという道徳劇として扱っているのです。

たとえ、それにポルトガルとアイルランドを入れたとしても、私たちはユーロ圏経済のほんの小さな部分について話をしているに過ぎないのです。事態が深刻化しつつあるスペインを含めたとして、ユーロ経済のおおよそ11%。イタリアを入れるとしたら、そうですね、誰もそれをきちんとは考えていません。

明らかに、緊縮財政は経済の苦痛を悪化させるだけです。税収入の減少、さらなる失業、投資の減少、地下経済の拡大などが起こるのです。それに加え、非常に大きな人的苦痛にユーロ分裂の可能性もあるのです。これまで、IMFの緊縮方針によって国の経済が良くなったことが示されたケースは一つもありません。

新自由主義経済学者たちは、かつて1930年代に、ケインズ主義的政策が大恐慌に対し優れた長所を持っていた、という記憶を全て消し去ることに成功しました。その代わりに、私たちは債務問題のうずきに直面し、経済は緊縮財政によって締め付けられ、回復の見込みはありません。

ギリシャはデフォルトすべきか? それ以外に、ギリシャはどのような政策に従うべきだと考えるか?

ギリシャは債務の支払いはできず、デフォルトするでしょう。ギリシャはすでにそうなっているのですが、誰もそれをデフォルトであるとは言わないのです。この際どい状況の後には、現実を無視した何らかのその場しのぎの解決先が新聞をにぎわせるでしょう。

もし私がパパンドレウ首相であったなら、「支払えないし、払うつもりはない。」と言ったでしょう。そして、債務の何パーセントが「忌避(odious)」(違法状態を意味する法的概念)に当たるか、ギリシャが道理として、長期に渡りどの程度を取り扱えるのか、を示すでしょう。

そして、ギリシャは、部分的に債務の何パーセントかは支払わないことを宣言し、すべての民間金融機関と交渉して、より長い満期、より低い利率など、どのような条件でギリシャが残りの債務を返済するかを決定するよう提案したでしょう。金融機関は所有する権利をまったく受け取れないか、50%を受け取るか、その間を選ばざるを得なかったはずです。また、覚えておくべきことは、彼らは兵隊を持っていないということです。彼らがギリシャに侵攻することはないのです! さらに、条約では加盟国を強制的に外す条項は存在しないため、ギリシャは欧州圏を離脱する必要さえありません。こうしておけば、もっとしっかりと考えることができたでしょう。

間に合わせの法案はアイルランドやギリシャではまったく機能しないことは明らかです。私にも、そうしたことがどうなるかは分かりません。途上国や現在のヨーロッパにおいて、貸し手の側は、軍隊や帝国政府がなくても、債務によって植民地主義のようなものを行使することができるのです。ラテンアメリカ諸国が債務を返済できるようになると、すぐさまIMFへの返済を優先させたことは偶然ではありません。それが、彼らの経済を再稼動させるための唯一の方法だったのです。

私たちは、ケインズが1920年代に『講和の経済的帰結』で何を書いているかを思い出すべきです。彼は、ドイツは戦後の債務を支払うことはできず、それによって大惨事を引き起こすだろうと警告していたのです。そしてその通りとなったのですが、ドイツは第二次世界大戦後にはそれとは完全に異なる債務契約を結びました。それは、債務の支払いと利払いを大きく制限していました。その条件とは、現在の彼らがギリシャに対して提案したがらないもの、そのものなのです。

今回の危機の責任は誰にあると考えるか?

金融セクター、地元の政治家、ヨーロッパの政治家、それに当然、ユーロ圏を経済的に拘束しているリスボン条約と欧州中央銀行です。

誰かが、フランスとドイツにギリシャの債権を大量に購入するように強制したわけではないのです。金融市場はギリシャの債権とドイツの債権を同じものとして取り扱いました。現在では、ギリシャの債権はギリシャのものとして算定されており、社会的コストを考えずに、可能な限り高い利率で多くのお金を取り戻さなければ気が済まないのです。

また、ヨーロッパ各国政府の多くは、明らかに自身の金融セクターの代理人となって政治を行ってます。しかし、彼らの火遊びがさらにユーロ圏を吹き飛ばし、全てをふいにしかねないのです。

危機を引き起こしたユーロの構造的問題とは?

私は熱心なヨーロッパ主義者であり、ユーロの存続を望みます。しかし、私たちは現状では、それを釣り合うだけの経済的、社会的機構を持っていません。私たちは共通の通貨を持っていますが、共通の財政、経済、社会的政策を持っていません。増税を行うどころか、各国政府はアイルランドの法人税率12.5%にまで引き下げようと競争しているのです。

私たちヨーロッパの予算は馬鹿げたもので、ヨーロッパ全体の税はなく、金融取引に対する税はありません。通貨市場だけで見ても世界規模の取引で、現在一日に4兆ドルという途方もない額になります。それの1万分の1でも税を課せば、1日4億ドルにもなるのです。そのお金で多くの問題が解決できるでしょう!

欧州中央銀行(ECB)こそが成功への障害なのであり、ユーロ自身ではないのです。ECBは、政府にお金を貸すのではなく、銀行に対し1%もしくはそれ以下で資金を提供しており、銀行が政府に貸し出しています。ギリシャとアイルランドの短期債権は「ジャンク」扱いになっており、利率は20%になっています。

ECBは他の中央銀行と違って、ユーロ債を発行しません。こうして、私たちは銀行と格付け機関に統治されるようになったのです。私たちは、個々の国々に対する過剰な投機行動を阻止するためだけではなく、どの国も自分の国だけでは管理できない、広範囲の環境やインフラ・プロジェクトにヨーロッパが投資できるよう、ユーロ債を必要としているのです。

その他にEUの経済政策で危機を引き起こした問題点は?

私たちがフランスでリスボン条約とこれほど激しく戦っている理由の一つは、リスボン条約がヨーロッパの中枢で新自由主義経済政策を祭り上げ、私たちが現在直面している危機のいくつかを生み出したためです。現在、欧州委員会が、加盟国が一定の基準を満たせるかどうか確認しようと、各国議会が採決を行う前に全ての加盟国の予算を審査したいと考えています。これは民主主義への露骨な攻撃です。

現在、欧州委員会の元で、ヨーロッパ各国同士の自殺行為と言える競争をも含む「競争力」という基準によって、何もかもが審査されているのです。全ての国がドイツになれるとは限らないのにです。欧州圏では、政府支出はなおGDPの50%程度ありますが、企業や資本は彼らが手に入れられるだけの支配を求めています。またしても、私たちはゆっくりと19世紀に引き戻されつつあるのです。

社会運動はこの危機にどう応えるべきか? また私たちはどのような代替策を議論することができるか?

金融セクターをコントロール化に置くこと、金融取引に税を課すこと、ヨーロッパ人、特に欧州圏各国政府がお互いに連帯によって行動させること。

どの程度が「忌避(odious)」に当たるかを決めるため、債務監査を実施すること。

貸し手の側に味方して歪められることのないような、債務処理方法の構築。

私たちはユーロ債および、アメリカの連邦準備金制度に非常に近い形のECB(欧州中央銀行)を持つ新ヨーロッパ憲章を必要としています。

取引のための通貨として、ケインズが提唱した国際通貨バンコールを使用すべきです。それについては別の機会にお話しましょう!

また、金融機関のためよりも市民のために統治を行う、公的な非営利格付け機関や政府があれば、より幸いでしょう。

原文:
End financial control of European governance
http://www.tni.org/interview/end-financial-control-european-governance

翻訳:高丸正人

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