ピーター・チビズはハンカチでベンチの埃を払いのけて座り、どうしたら自分の胸の痛みと頭痛、ひどい咳の症状を医者に無料で診てもらうことができるのかと苦悶の表情を浮かべた。彼は医療費を払うことができなかったため病院にいく事をためらっていたが、激しい痛みに耐えかねて村から12マイル離れたザンビア南部にあるナンゴンウエ診療所に向かった。
「次の方どうぞ」受付の奥から看護婦の声がすると、67歳のピーターは不安な顔をしながら立ち上がった。だが、彼は治療費を払う必要がないことを告げられると、その顔が一気に輝いた。
「私にとっては夢のようだった。」とチビズは語った。「診療所に行ってもお金を払う必要がないなんて素晴らしいことだね。」-ロイター通信2006年4月13日
債務が削減される以前、ピーター・チビズの様な地方の住民は医者に診てもらうだけで1ドル以上の料金を支払わなければならず、必要な治療を受けることが出来なかった。受診者負担を廃止することで、ピーターの様なザンビアに住む何千もの人々が初めて医療ケアを手にしたのだ。
債務削減:貧困を戦う効果的な方法
医療、教育、清潔な水へのアクセスができないために、世界の大勢の貧しい人々が極度の貧困に置かれている。巨額の債務は遥か以前の独裁体制によって作られたものだが、それによって何十もの貧困国が支払い不能な債務の重しで押しつぶされようとしている。
だが、世界規模のジュビリー債務帳消し運動によって、G8サミットの首脳陣は1999年および2005年に貧困国の支払い不可能な巨額の債務を帳消しすることに合意し、社会サービス投資のために数十億ドルの基金を設けた。
これまでにアフリカおよびラテンアメリカの26カ国が債務の大部分を帳消しされている。アメリカやその他の豊かな国々が、途上国の経済開発や貧困削減プログラムを実行するために1千億ドル以上に上る追加の債務帳消しを準備している(1)。
債務帳消しによる効果の概要
債務削減から10年が経過し、以下のような結果が生まれた。また、ピーター・チビズのようにアフリカやラテンアメリカに住む多くの人々が貧困国債務削減の恩恵を受けている。
・世界銀行によると、債務削減を受けた国々では社会サービス支出が75%増加した(2)。
・債務削減によって幼児死亡率が大幅に減少した。世界銀行によると、「貧しい国々は債務帳消しを受けるまで社会・経済の状況はほとんど改善していなかった」(3)。
・債務削減により国家全体に渡る初等教育の普及状況が改善されてきていることが明らかになっている。世界銀行の調査によると、債務削減の結果、削減を受けた国々において初等教育を受けている児童の中途退学率が大幅に減少した(4)。
国別ケース・スタディ
ブルンジ
東アフリカの小さな国家であるブルンジでは、人口の80%以上が1日1ドル以下の生活をしており、約60%が読み書きできない(5)。債務削減によって、ブルンジは2009年の時点で毎年5千万ドルを節約できるようになっている(6)。このお金によってブルンジは次のようなことができるようになった。
・地方において保健センターを建設し、妊婦や5歳以下の子どもに対し無料のヘルスケアを行うための費用に充てることができるようになった(7)。
・ 教育予算が増加し、より多くの教師を雇用し、より多くの学校を建設し、より良い教材を用意することが可能になった(8)。
・食料の安全性か改善し、飲料水が手に入るようになった(9)。
ナイジェリア
ナイジェリアでは債務削減によりインフラ整備を進めることが可能になり、ヘルスケアや食料、教育を受けられるようになった。
・例えば、債務帳消しによって灌漑事業が進み、農村地域を繋ぐ国道の改良・再建ができるようになった(10)。
・また、債務削減は地域の男女フォーラムを通じて、女性の権利や男女平等を普及させることに役立っている(11)。
ガーナ
ガーナの人口の30%が1日1ドル以下の生活を送っている(12)。しかし、債務削減プログラムが導入されて以来、ガーナ政府は貧困削減のための支出を大幅に増やすことができるようになった。
・債務削減により、ガーナの貧困率は1999年の40%から2006年の29%に減少した(13)。 ・削減により、2006年までに小学校への就学率が91%に増加した(14)。
・債務削減により、今まで木陰で行われていた授業が新しい教室に移動し、教室の過密状態が解消され、指導・学習の質が改善した(15)。
・IMF貧困削減戦略ペーパーによると、2002年から2005年にかけて、ガーナにおいて社会資源が貧困な42の地域に、教育、保健、水、衛生分野など836のHIPCプロジェクト資金が供給された(16) 。
・債務削減により、268の教室、36の診療所、10の病棟、87の取水井戸の開発資金が供給された(17)。
ニカラグア
アメリカ中部最大の国家であるニカラグアは、ハイチの次に貧しい国である(18)。
・ニカラグアでは債務削減により、2007年と2008年で保健分野への投資を5430万ドル、教育分野で1億2100万ドルに増加させた(19)。
タンザニア
タンザニアはHIVエイズの感染率が高く、識字率が低く、乳児死亡率が1000人につき69人に上る(20)。それでも、タンザニアはアフリカでも最も早い2001年に債務帳消しを受けた国の一つである。タンザニア では、
・債務削減により、学校の児童数が50%以上に増加した。さらに、約2500の学校が新規に建設され、2万8千人の教師が新規に雇用された。
・債務削減により、2002年から2003年にかけて、タンザニアでは31,825の教室が建設され、小学校の数は2000年の11,608校から2003年には12,689校に増加、実質1,081校が増加した。また、この2年間で17,851人の優秀な教師が雇用され、9,100個の科学教育セットが供給された。小学校の昇級試験合格率は1999年の19.3%から2003年には40.1%に増加した。
・債務削減の進展によって、タンザニアはこの6年間で貧困削減予算を130%増加させた(21)。
債務削減はどのように機能しているか
私たちはどうすれば債務帳消しにより生まれるお金を、それを最も必要とする人々に届けることができるだろうか?
債務削減や帳消しを達成するためには、貧困国は世界銀行の重債務貧困国(HIPC)イニシアティヴという厳格なプロセスを通過しなければならない。貧困国は公的資金管理、透明性に関する厳格な基準を達成しなければならず、債務削減により生まれる資金をどう活用するのかを詳細に計画し報告する必要がある。
ガーナ、タンザニア、ニカラグア、ウガンダ、ナイジェリアなど多くの国々が「ヴァーチャル貧困基金」という国家予算において債務削減により得られた資金やその他資金を追跡するシステムを創設している。カメルーンやホンジュラスなどの国々はまた異なったアプローチを取っており、市民社会や独立した個人による外部監視を行う単独基金を設置し、債務削減によって生まれた資金を追跡記録している(22)。
最貧国の市民団体も、政府が債務削減により生まれた資金をどのように使っているのかを監視するために重要な役割を果たしている。ザンビア、タンザニア、ガーナ、ナイジェリアなどの市民団体は、債務削減で生まれた資金の政府の使用状況を監視し、債務削減がそれを最も必要とする人々に届くように政府役人と共に政策提言に取り組んでいる。アメリカやその他の市民社会は、説明責任が必要となったときに債務削減国の市民社会がそれを求めることができるよう支援している。
未完了となっている問題
債務削減は特効薬ではなく、また完全に行われたわけでもない。
債務削減により得られた恩恵をより良い公的財政管理や予算記録に向けるという成果が貧困国で達成されているが、さらなる透明性や説明責任の確保を行なえるように、市民社会が政府と共同することを力強く支援する努力が必要であることは明らかだ。債務削減の影響とその利用を独自に監視し定期的な報告をより行うことが、そうしたことに決定的な役目を果たすだろう。現状では、この問題におけるほとんどの文献や調査報告はIMFや世界銀行、貧困国自身より提供されている。
ジュビリーUSAネットワークは、(1)債務削減が最貧国の人々により効果的でより恩恵を与えられるような手段を構築し、(2)貧困と戦うために削減を必要としている最大22カ国の貧困に苦しむ人々が債務帳消しを受けられるようその資格を拡大すること、を定めた「ジュビリー決議」を議会で定めるよう求めている。
ジュビリー決議によって、それらの国々が透明性や公的資金管理、基金の使用について厳格な基準を満たす場合において、現在債務削減対象から除外されている22の貧困国を債務帳消しに追加することができる。また法定により、国家が将来再び債務漬けにならないよう責任ある貸し付けのためのフレームワークを構築することができるだろう。
参考文献
1)IMF, "Heavily Indebted Poor Countries (HIPC) Initiative and Multilateral Debt Relief Initiative (MDRI) Status of Implementation," September 12, 2008, p.10.
2)Drop the Debt, “Reality Check: the need for deeper debt cancellation and the fight against HIV/AIDS,” April 2001, Drop the Debt http://www.globalissues.org/article/228/reality-check-the-need-for-deeper-debt-cancellation.
3)Juan Pedro Schmid, “Is Debt Relief Good for the Poor) The Effects of the HIPC Initiative on Infant Mortality,” Economic Policy and Debt Department, The World Bank;)http://siteresources.worldbank.org/INTDEBTDEPT/Resources/468980- 1170954447788/Summary0103.pdf.
4)Jesus Crespo Cuaresma and Gallina Andronova Vincelette, “Debt Relief and Education in HIPCs,” at http://siteresources.worldbank.org/INTDEBTDEPT/Resources/468980-1170954447788/3430000- 1224794603726/Report0102.pdf. Both papers were presented at “Debt Relief and Beyond,” a World Bank Conference held in October 2008.
5)United Nations Development Project, “UNDP- Burundi ) Millennium Development Goals Update,” 2008,UNDP http://www.bi.undp.org/
6)Iacovos Ioannou and Bernardin Akitoby, “DEBT RELIEF IN AFRICA: Burundi's Debt Relief Savings to Go to Food, Health, Schools,” 2009, IMF Survey Magazine,)http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2009/CAR020509A.htm).
7)Ibid.
8)Ibid.
9)Ibid.
10)Dan Rogger, “Nigeria,” 2006. DanRogger.com)http://www.ucl.ac.uk/~uctpdro/nigeria.html
11)Ibid.
12)United Nations Development Project, “UNDP Ghana- Millennium Development Goals Update,” 2008, UNDP http://www.undp-gha.org/mdg.php)page=MDG
13)World Bank and IMF, “Ghana: Poverty Reduction Strategy Paper)2006 Annual Progress Report,” July 2009. P. xiv. http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2009/cr09237.pdf.
14)Ibid.
15)Ibid.
16)Ibid.
17)Ibid.
18)CIA, “Central American and Caribbean: Nicaragua,” 2009, CIA: The World Fact Book, https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/nu.html
19)Statement by Secretary of State for International Development, House of Lords, UK, May 21, 2008, at http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200708/ldhansrd/text/80521-wms0001.htm#80521-wms0001.htm_spnew0
20)CIA, “Africa: Tanzania,” 2009, CIA: The World Fact Book, https://www.cia.gov/library/publications/the-worldfactbook/ geos/tz.html
21)“Summary of Primary Education Development Plan (PEDP) Achievements in Tanzania, 2002-2003” Letter from the President of Tanzania’s Office. The United Republic of Tanzania, February 17, 2004. http://www.jubileeresearch.org/news/tanzania040304.htm
22)For a helpful overview of some of the institutional mechanisms used in HIPC countries to track resources released by debt relief, see Alsop and Rogger, “Virtual poverty funds: Global review,” prepared for Aiding the Poorest: Ten Years on from the Birmingham G8, conference, University of Birmingham, May 16-17 2008. At: http://www.newscentre.bham.ac.uk/debtrelief/Table_AA1.pdf
原文:
http://www.jubileeusa.org/resources/publications/debt-relief-works-project.html
(翻訳:高丸正人)
0 件のコメント:
コメントを投稿