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2010年3月16日火曜日

法律の外側の経済

「この土地は私たちが所有するものです。この土地は、これを売りたいと申し出た農家から購入しました。私たちは、この土地の所有を証明する法的な書類は一切持っていませんが、これは私たちのものです。

フィリップ・テシャはこう述べている。テシャはタンザニアのコーヒー農家だ。彼は、アメリカのテレビ番組、コマンディング・ハイツでインタビューに答えている。テシャはある問題を抱えている。彼の一家はタンザニアで何世代にも渡って土地を耕してきた。しかし、テシャは彼が耕している土地の所有を証明するものが何もないのだ。彼の一家の中に土地の所有を証明する書面や法的証書を持つものはいない。テシャのような状況は世界の多くの国で共通して見られるものである。今回は、この問題と解決策について取り上げたい。



世界の人口の66パーセントの人々は、自分の財産や事業を証明する法的証書を持たない。こうした書類が無くては、これらの人々は国の経済の一部として存在することができない。彼らは銀行からお金を借り、投資をして自分達の事業を伸ばすために自分の財産や事業を使うことができないのだ。それでは、富を作り出すことはできない。

ヘルナンド・デ・ソトはエコノミストであり、経済の専門家である。彼はフィリップ・テシャのような人々の支援を行っている。ヘルナンド・デ・ソトは、貧しい人々が自分達の財産を証明する法的証書を取得できるよう手助けしたいと考えている。デ・ソトは自らの目標をこう説明している。

「貧しい人々が必要とするものを見つけること。そして、それを政府の行動に変えることです。」

ヘルナンド・デ・ソトは、子どものころから豊かな人々と貧しい人々の違いについて考えていた。デ・ソトの家族は南米のペルー出身である。だが、父の仕事の都合で家族はスイスに移住した。デ・ソトはヨーロッパの豊かな国々をいくつも旅して回った。また、彼の両親はときどき彼をペルーに帰らせていた。

彼は旅行する度に、ヨーロッパの豊かな国々とペルーの貧困を比べた。彼には、どうしてある国が豊かなのに他の国は貧しいのか不思議に思えた。ヨーロッパ人がペルー人よりも頭が良くて、よりたくさん働いているようにも思えなかった。

デ・ソトは大人になり、ビジネスマンとして成功を収めた。彼は豊かになったのだ。彼は38歳の時に仕事辞めた。仕事を辞めたとき、彼は貧困の原因を学ぶことを決意した。彼はこうしてペルーに戻ったのである。1980年、デ・ソトは自由と民主主義研究所という団体を立ち上げた。彼は、貧しい人々を研究するのに最も良い方法は彼らの声を聞くことだと考えた。彼は、研究チームを雇った。研究チームはペルーのリマに住む貧しい人々について話し合った。1981年から1984年、研究チームは人々の話と資料を収集した。彼らの発見はすばらしいものだった。

デ・ソトの研究チームはペルーの事業の多くは貧しい人々が所有していることを発見したのだ。だが、こうした人々は彼らが所有するものが実際に彼らに所属することを証明する法的書類をまったく持っていなかった。

デ・ソトと研究チームはこの状態を「法律の外側(extra legal)」と呼び始めた。ここでの「extra」とは「外部の」または「含まれない」といった意味だ。つまり、「法律の外側」とは法律によって保護されていない人々のことを述べたものなのである。三年におよぶ研究で、デ・ソトと研究チームは、ペルーの小規模産業の90パーセントが法律のない状態のまま、人々により所有され経営されていることを発見した。彼の初著、「新たな道」の中で、デ・ソトは研究チームの成果をこう報告している。

「ペルーは実際には二つの国で成り立っている。一つは、法的システムによってとりわけ限られた人々に権利が与えられる国、もう一つは、ペルー人の大多数がローカル・ルールによって、法律の外側で生活し、働いている国である。」

ペルーの法律の外側の経済においては、ペルーの人々は簡単に抑圧されてしまうのだ。デ・ソトたちは、多くの話からこの問題を聞いた。

一例として、エウセビオという人の話がある。エウセビオの家族は何世代にも渡って自分達の土地に住んできた。ある日、何人かの男たちがエウセビオの家族に話しに来た。彼らは、偽の法的証書を取り出した。その証書を元に、男たちはこの土地の所有権を主張した。エウセビオの父親や祖父が100年に渡ってこの土地を耕してきたことは問題ではない。法的証書がないために、エウセビオ一家は自分達が耕す土地が彼らの所有であることを証明することができなかった。その結果、エウセビオ一家は彼らのために働かせられたのだ。

エウセビオ一家の小さな農地では、一家が細々と生活していくだけのものしか生産できなかった。彼の所有を証明する法的証書がなくては、エウセビオはこの財産を銀行からお金を借りるために使うことができなかった。借り入れによって、エウセビオは彼の農地に使う、より多くの種を買うことができる。また、それによって、彼は農地を広げ、新しい事業を始めることができる。だが、法的証書がないために、エウセビオに選択肢はほとんどないのだ。

法律の外側の人々は、こうした問題のほかにも多くの問題を抱えている。こうして、デ・ソトたちはどうしてこれほど多くのペルー人が法律の外側に置かれているのか考え始めるようになった。デ・ソトの研究チームは多くの疑問を提起している。

デ・ソトの研究チームはペルーには非常に多くの障害があることを認めている。その障害とは人々が法的証書を手に入れることを阻むものである。法律の外側にいる者が小規模事業の証明書類を提出するのには一年以上の時間がかかる。合法的な存在になるのは非常に難しい。そのため、デ・ソトの研究チームは法律を変えるために政府と作業を進めた。現在では、ペルーに住む法律の外側の人々が法的書類を請求し、受け取ることがより簡単になっている。そして、彼らはその手続きを済ませ、国の経済の一員となっている。

何千ものペルー人のように、デ・ソトと研究チームの仕事のおかげで、エウセビオは自分の土地の法的証書を手に入れた。また、エウセビオの住む地域の多くの人々が法的証書を受け取った。エウセビオとその子ども、また子孫代々も保護されることになる。彼らは、自分達の農地が生み出す利益の全てを受け取ることになる。その上、必要なら、彼らはお金を借り、農地をより良くするために投資することができるのだ。

デ・ソトのアイデアはペルーで非常に成功を収めた。彼らの業績が非常に素晴らしかったために、多くの世界的リーダーたちがデ・ソト・モデルを学びたいと望んだ。デ・ソトの組織は今や世界中の多くの国々で活動している。彼らの見積もりによれば、世界の貧しい人々は法律の外側の財産を合わせて9兆ドルも所有している。もしもこうした人々がこの資源を合法的に投資できたとしたら、彼らの多くが貧困から抜け出す方法を見つけることができるだろう。

デ・ソトの組織が活動している国の一つがタンザニアだ。デ・ソトの職員は、フィリップ・テシャの話を聞いた。いつの日か、テシャと地域住民は彼らの土地の法的証書を手にすることができるだろう。彼らはお金を借り、投資できるようになる。彼らの努力で農地が広がるのだ。

それぞれの国で、デ・ソトの研究チームは同じ方法を始めている。

彼らは疑問を投げかける。彼らは聞く。彼らは法律の外側の人々の努力を理解している。彼らは、貧しい人々がどれほど多くの資源を持っているかを知っている。著書「資本の謎」において、デ・ソトはこう結んでいる。

「貧困は問題ではない。それは解決策なのだ。」

(翻訳:高丸正人)

原文:http://spotlightradio.net/listen/extra-legal-economies/

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