1.洪水被害からの復興は極めて困難な状況
パキスタンの洪水被害は発生から半年が過ぎ、いくつかの報道機関ではその後の追加取材がされているようです。
英ガーディアン紙が写真と音声(英語)によるスライドショーを掲載しています。
Six months after the Pakistan floods - audio slideshow
http://www.guardian.co.uk/world/interactive/2011/jan/29/pakistan-floods-audio-slideshow
現在でも水の引かない地域が残されており、小麦畑だったところが湖のようになり、もともとそこで畑を耕していた農民が魚を獲って何とか生き延びている姿が非常に印象的です。また大勢の人々がキャンプ生活から抜け出せていない様子も写し出されています。
援助を行っているNGO側はパキスタンの洪水被害が国際的に少しずつ忘れ去られようとしている事に危機感を募らせており、国際支援NGOのオックスファムは、危機はまったく終わっておらず、状況はより悪化する可能性があると声明を出しています。
Oxfam claims Pakistan flood crisis not over
http://www.discountvouchers.co.uk/news/138343535.html
Pakistan flood victims struggle to eat
http://www.trust.org/alertnet/news/pakistan-flood-victims-struggle-to-eat-as-global-food-report-says-prices-may-double
洪水被害地域南部では栄養失調が劇的に悪化しており、その上、今年の作付けも出来ない状況下に置かれています。国際的な食料価格の高騰もあり、パキスタン国内でも食料品の価格は洪水前に比べ50%も上がっています。子ども達はたんぱく質が不足し、髪の毛が赤く変色している子どももいるようです。
また、国連の報告では少なくとも17万人が救援キャンプに残されたままになっているとのことですが、実際には救援キャンプにすら入れなかった人々がいて、その数が含まれていないとのこと。
国連が発表した20億ドルの復興支援基金についても、実際にはその56%しかお金が集まっていない状況です。
2.政治は混迷を深める
エジプトの市民革命は、同じイスラム国家であるパキスタンでも議論が巻き起こっているようで、「我々もエジプトに続け!」という声が少なからず上がっています。
Will Pakistan Follow Egypt's Example?
http://www.cfr.org/pakistan/pakistan-follow-egypts-example/p24038
とはいえ、パキスタンは07年に既にムシャラフという独裁者を市民パワーで追い出しており、むしろパキスタンは先輩格と言えます。
しかし、リーマンショック以降、輸出産業の低迷、失業率の増加、食料品・原油価格の高騰、債務危機とパキスタンを取り巻く状況は一気に悪化し、政府に対する国民の不満は高まるばかりです。
こうした状況に対し、パキスタン政府はIMFから緊急融資を受けようとしていますが、条件として電力などへの補助金カットや、大規模な増税を要求されており、国内の強い反発を受け連立与党は分裂。結局、増税は今年度見送りとなってしまいました。
Pakistan seeking to restructure debt
http://www.dailytimes.com.pk/default.asp?page=2011%5C01%5C19%5Cstory_19-1-2011_pg7_17
一方、パキスタンの抱える対外債務は悪化の一途をたどっています。世銀のレポートによると、パキスタンの対外債務は2010年度末には646億ドル、15年度末には741億ドルに達すると見られており、現在、対GDP比で60%になっている債務が80%に達したら債務不履行(デフォルト)に陥るかもしれない、と述べられています。
Default certain if debt-to-GDP ratio
http://www.thenews.com.pk/TodaysPrintDetail.aspx?ID=28114&Cat=3&dt=1/28/2011
ただ、個人的にはパキスタンのデフォルトはないと思います。というのは基本的にアメリカと日本がお金を貸す気満々だからです。その上、アメリカの影響下にあるIMFや日本の影響下にあるアジア開発銀行も貸してくれるわけで、パキスタンの地政学的な重要性がある限り、いくらでも金は引き出せるでしょう。
しかし、将来借金漬けにされたパキスタン情勢はさらに不安定になることも間違いなく、アメリカはまたしても敵を増やす結果に陥りそうな気がします。
3.日本政府は3,790万ドルの支援を決定
日本政府は国際移住機関(IOM)を通じて、世界各地の移民や国内避難民を支援する活動に資金を提供することになりました。
その中でもパキスタンの洪水被害者45万人に対する支援が最も大きく、シェルターや生計の支援、保健・教育分野の基本的なインフラ再建を行うことになっています。
IOMの人道支援に対し、日本政府が3,790万ドルの拠出を決定
http://www.iomjapan.org/news/press_234.cfm
4.パキスタンと日本
パキスタン政府は、日本のJBICより30億ドルの融資を受けて、日本製の発電設備を購入しようとしています。先日、大統領が来日した際には、そのほかにも日本との自由貿易協定(FTA)に向け、農産物などの関税引き下げ交渉などが検討される模様です。
Pakistan seeks $3 billion soft loans from Japan
http://www.thenews.com.pk/TodaysPrintDetail.aspx?ID=31394&Cat=3&dt=2/16/2011
また、JICAはパキスタン国内の鉄道建設のために14億ドルの円借款を決めています。
Loan deal for Karachi circular railway this month
http://www.thenews.com.pk/TodaysPrintDetail.aspx?ID=30694&Cat=3&dt=2/12/2011
日本は確かにパキスタンに対し無償援助もしているのですが、それと1ケタ・2ケタ違う単位の借金を背負わせている状態です。しかもデフォルトの危機が迫っている国に、です。
5.パキスタンとアメリカ
先日、パキスタンの都市で、アメリカ人外交官がパキスタン人の男二人を射殺するという事件が発生し、警察は外交官を拘束、両政府に緊張が走っています。
外交官は男二人は強盗で、射殺は正当防衛だと主張しています。パキスタン政府は外交官を裁判にかけるつもりですが、アメリカは男の即時開放を求めています。
US Urges Pakistan to Free American Official
http://www.voanews.com/english/news/asia/Obama-Urges-Pakistan-to-Free-American-Diplomat-116241599.html
パキスタン国内では反米感情が強まり、「アメリカの援助が打ち切られても知るものか!」という強い反発が巻き起こっています。
Pakistan can survive without US aid!
http://pakobserver.net/detailnews.asp?id=75803
運営委員:高丸正人
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